家を出る頃、外は夕暮れの影に覆われていた。エントランスから少し離れた所で、お姉ちゃんに連絡を入れる。

 隣に立つ2人が何かを話しているけど、あまり聞こえない。


「結局、樹くんは味方なの? それとも敵?」

「俺はいつでも味方だと思ってるよ。でも、そうはいかない時もあるってこと」

「2人のため?」

「比茉里ちゃん、よく分かってんじゃん。でも、あの平手打ちは痛かったなぁー」

「……ごめんなさい」

「ハハッ、冗談。結奈ちゃんのことになると必死な比茉里ちゃん、カッコ良かったよ」

「なんか複雑」

「ほーんと、未来なんて関係なくなっちゃえば良いのになぁ」


 電話を終えると、陽だまりのような空気が流れていた。先ほどまでが嘘のように、穏やかな表情の2人。この様子だと仲直り出来たのだろう。

 安堵が押し寄せて、頬から滲み出ていく。
 夕闇の時刻へと向かう電車で、帰路に着いた。


 私はまだ知らなかった。湊くんが告げた、さよならに込められた本当の意味を。