どうして、そんなことを聞くのだろう。
 緊張なのか、恐れかはっきりしないけれど、喉が氷のように固まって何も答えられなかった。

 仲良くなれたと思っていたのに、この仕打ちは切ないよ。

 下津くんが部屋を出てから数分が経つ。「大丈夫?」と気遣う顔をする比茉里ちゃんを心配させまいと、無理に笑ってみせた。

 少しの沈黙が続いたあと、彼は何かを持って戻ってきた。
 目の前に差し出されたのは、1枚のクリアファイル。その中に、破られた不恰好な白い紙が入っていた。


 繊細な鉛筆の線。今にも絵から飛び出して来そうな横顔に見覚えがあった。
 破かれた粗い断面も似ている。間違いなく、湊くんの家にあったスケッチブックの片割れだ。

 薄れていた輪郭が鮮明になって、脳内にインプットされる。
 何も知らずに見た時とは、まるで違う。私は今、湊くんが未来で出会う運命の人を見せられているんだ。


「……この人って」

「湊が中2の時に描いたもの。アイツが破り捨てたのを拾っておいた。未来で出会うはずの大切な人だって」

「……でも」


 比茉里ちゃんの言葉を遮るように、被せて下津くんが続ける。落ち着いて、それでいて力強く。


「だから、湊のこと諦めてくんない?」

「ちょっと、樹くん! 結奈ちゃんは……」