昼間の光がまだ残る放課後。高層マンションのだだっ広いリビングで、私は固唾を呑む。70インチのテレビは消えていて、部屋の静けさが目立っている。

 ソファーにかしこまって座る私たちの前で、制服姿のまま絨毯(じゅうたん)にあぐらをかいた下津くんがつぶやいた。


「今宵、私は(おのれ)の感情に負けてあなたを傷付けるでしょう。それでもあなたは、私を許してくれるだろうか?」


 クライマックスのBGMが脳内で流れ出す。瞬きひとつしない眼に、心臓がドクンと波打つ。


「いきなり何? それ、オリオン座の怪人の台詞だよね?」

「なんとなく。思い出したから言ってみただけ」


 突っ込んだ比茉里ちゃんではなく、こちらをじろりと見て鼻をならす。触れ合う瞳は尖っているように感じた。


「単刀直入に言うけど、結奈ちゃんって湊のことまだ好きだよね? あれだけ避けられてんのに、なんで?」


 机に頬付えを付く下津くんは、何かを悟った顔をしている。
 自信に満ちた目と唇が動くたび、私の心臓は大きく揺れた。