5日が過ぎて、現実の色が濃くなった。
 時間をずらしたのか、朝の電車で湊くんを見かけることがなくなり、購買ですれ違った時も知らないふり。

 いくら鈍感な私でも、完全に避けられていると分かった。


「天使と悪魔、有為転変、心のポイ捨て……」


 呪文のようにぶつぶつとつぶやきながら、比茉里ちゃんが階段を上がる。その足取りは私と同様に重く感じた。


「最近、星名くん変わったよね」

「……そう、かな」

「前は紳士だったのに、今は別人みたい。陰での呼び名、王子にクールってつけられてるらしいよ」

「……クール」

「素っ気ないって。全然イメージなかったよね。人は本質を隠してるって言うけど、星名くんもそうだったのかなー」


 湊くんは、見返りのためと言っていた優しさを封印した。誰にでも向けていた笑顔はなくなり、人と関わることをやめたように思える。


「ほんとに、そうなのかな。誰にでも優しい湊くんより、今の方が無理してるように見えるよ」


 階段を上り終えたとたん、背後から肩を奪われた。
 重力に引き寄せられるように抱かれた体。突然のことに息する余裕もなく、隣で比茉里ちゃんの濁声(だくせい)が聞こえた。


「誰が無理してるってー?」


 すぐ横に目を細めた下津くんの顔があった。鼻の頭がぶつかりそうな距離で、思わず彼の体を押す。
 その反動で比茉里ちゃんが抱き締められた体勢になり、再び奇声のような叫び声が廊下に響いた。