「鹿島さん、なんとか言ったらどうなの? 落ち着き払って。湊くんと会えなくなってもいいわけ?」

「だから、結奈ちゃんに当たらないでよ」

「……よくないよ。よくないけど、何も……出来ないから」

 正座した(ひざ)の上で手のひらを握ったら、スカートがくしゃっと歪んだ。


 昨日の帰り道。太陽と月の光が交わる時、胸の中から未来の声があふれた。
 しばらくぶりに聞いたその言葉は、私の心を雨ざらしにした。


 ーーずっと、結奈ちゃんが好きだよ。


 未来を聞いているなんて嘘だと思った。


「だから、さよならだね」


 以前に想像で聞いたものと同じ。いつかは来るのだろうと覚悟はしていたけど。本人の口から発しられるのとでは訳が違う。

 あまりに甘くて皮肉な幻聴は、湊くんから告げられた台詞と対照的で、この先言われることはないのだと知らしめられた。


 書道室を出る頃には、薄暗い幕が空から降り始めていて、おぼろげな騒がしさの外れから、電車の窓に浮かぶ月を眺めた。