閉め切った書道の部室には、冬の乾いた空気が漂っている。
 墨汁の匂いが少し残るなか、教科書とノートが重なるように置かれた小さなテーブルの前。


「アメリカってなによ?! 湊くんのことだから絵の関係だってことは分かるけど、聞いてないわ! 湊くんと会えなくなるなんて、沙絢のお肌から水分を奪うつもりね? 砂漠のひび割れになったらどうしてくれるのよ」


 顔を覆う瀬崎さんのヒステリックな声が部室に響く。


「そんなこと結奈ちゃんに言っても仕方ない」

「追っかけたらいいんじゃん?」

「あら、なるほどね!」

「せっちー。この人本気にしちゃうから」


 明智さんが入っていた書道部は生徒が3名しか在席しておらず、引退した現在は1年生の女子がひとり。ほぼ廃部状態のうえ欠席しがちのようで、たまにこうして部室を借りて、放課後に勉強をしている。


「2組の男子情報よ。間違えないわ! こんなのロミオとジュリエットみたいじゃない」

「いや、全くわからん」


 さっきからこんな調子で、一問も解けていない。
 そもそも手をつけられる状態でないのは、私も同じだったのだけど。