「鹿島さん、いつも謝ってるね」

「すみません! あ、」


 口を開けば決まり文句のように出てくる言葉。小学生の頃から、何かにつけて言っていたから癖になっているんだ。


「もし予定なかったら、ちょっと寄って行かない? 今日、部活休みなんだ。他に誰もいないから大丈夫だよ」


 優しくとろけるような笑み。
 この人は、これまでどんな生き方をして来たのだろう。とても穏やかで全てを許す天使みたい。

 いつもびくびくして人の顔色を伺いながら生活している私とは、かけ離れた世界にいる人なんだろうな。

 静かな放課後の美術室に2人きりというシチュエーション。
 少女漫画での経験しかない私にとって、さらに緊張を高ぶらせる構図なのは間違いない。

 甘酸っぱい気持ちというよりか、完全に苦手意識の方が強い。
 話しが続くか以前に、上手く受け答えが出来るかの不安。

 星名くんが描いていたキャンバスには、幻想的な世界が広がっていた。
 胸の中に何かが生まれるような不思議な気分。


「これ、海の中をモチーフにしてるんだ。もしそんな世界があるなら、こんな感じなのかなぁって」

「すごく……素敵です。でも、なんか寂しいって……」

 言っている。絵の中にいる彼女たちが。

 海の中には橋や線路が伸びていて、その到着地点には城のような建物がある。
 人魚やユニコーンの架空生物も描かれている現実とはほど遠く美しい世界。

 でも、海底に行くほど光が薄暗くなっていて、生き物たちか閉じ込められている。