夜風は肌を刺すように寒くなり始め、季節は立冬を迎えた。落ち葉が舞い散る街は空気だけでなく、どこかもの寂しさを感じる。

 別校舎である湊くんとすれ違うことが少なくなり、それぞれが未来へ向けて歩き出す時期になった。何もしなくても、卒業は近付いてくる。


 教室の窓際の席から、体育の授業をする湊くんを眺めていた。前までなら、ふと目が合うと笑って手を振ってくれたのに、今は見えていないみたいに視線を逸らされる。

 避けられるようなこと、何かしたかな。空を見上げていた顔は、いつの間にか地面ばかり見るようになっていた。


普通科校舎(こっち)で全然見かけなくなったよね。星名くんたち」

「もともと違うからね。これから忙しくなる時期だし、出会う前に戻っただけだよ」

「……ほんとに、いいの?」


 向かい合わせに座って、同じ机を使いながら休み時間を過ごす。
 白紙のままになっているノートに、比茉里ちゃんがらくがきを始める。

 湊くんには好きな人がいて、他の人と幸せになって欲しいと告げられたことを彼女に話した。彼が見ている未来の話はしなかったけど、私に聞こえた未来の声は伝えた。

 すぐに理解してもらえると思わなかったけど、比茉里ちゃんはずっと頷いて聞いてくれていた。


「結奈ちゃんが納得出来てるなら、私は何も言わない。でも、そう見えないよ」


 真っ白だった紙の上には、仮面を被った人とお姫様がいて、周りは星が散りばめられている。


「オリオン座の怪人って、表向きはバットエンドに見えるけど、ハッピーエンドなんだよ。仮面取らなかったら、リオンは自分が愛した人だって永遠に気付かずに死んでいく。それって、ちょっと寂しくない?」


 物語の結末は、本人たちが決めること。

 だから、納得いく答えを出せばいい。比茉里ちゃんは、そう伝えたかったのかもしれない。