比茉里ちゃんは、旧体育倉庫の裏にいた。
 見つけた時、地面にうずくまって顔を伏せていたけど、肩が小さく揺れていたから泣いているとすぐに分かった。


「……比茉里ちゃん、あのね」

「どうして?」


 明るい花のような彼女の声が、掠れて弱々しく落ちる。
 見上げる目は薔薇のように赤くて、水が潤すように溢れている。

 私の軽率な行動が、こんな苦しそうな顔をさせた。好きな人が他の子と一緒にいて欲しくない気持ち、一番理解出来たはずなのに。


「結奈ちゃん、星名くんのことが好きなんだよね?」


 時間が止まったみたいに、何も答えられなかった。
 好きと言いたいけど、口に出してはいけない気がして。そうしたら、もう湊くんと会えない魔術にかかってしまうようで。

 開きかけた唇を(つぐ)んだ。


「下津くんと一緒にいたこと、ごめんなさい。でも、それには……理由があって」

「答えになってないよ」


 静かに置かれた連なる花火に、じりじりと火が移っていく。最後には大きな丸玉が待機していて、辿り着いた瞬間に爆発するの。

 この光景を、私は知っている。