開演間近の体育館は、すでに多くの人で賑わっていた。ステージ前に設置されたパイプ椅子は、ほとんど埋まっている。

 今年は吹奏楽とのコラボが話題を集めて、例年より注目を浴びているらしいから、時間ギリギリまで人影は絶えないだろう。
 1人で入ろうとしていたら、誰かに腕を引かれた。振り向くより先に体が前へ進む。


「1人なら一緒に見ない?」


 目に映ったのは、下津くんの顔。
 突然のことで声も出ないでいると、有無も言わさず中へ連れられた。


「あ、あの……」

 ぐいぐいと強制的に、空いていた一番後ろの端へ座らされる。その横で中腰になって、下津くんはいわゆるヤンキー座りという格好をする。


「とりあえず、こっちに」

 座ってと立ち上がったとたん、劇開始のアナウンスが流れ始めて、体育館のカーテンが閉まった。

 浮かせた腰は、薄暗くなった場内で行き場をなくして、再び椅子へ戻すしかなかった。


「湊と何かあったでしょ」

「…………」


 答えられないでいると、下津くんはさらに身を寄せて低く話す。離れようとする体は、腰に回された手によって止められた。


「2人とも分かりやすいなぁ。たぶん、その辺に湊いるから」


 どうして、と聞く前に答えが囁かれる。まるで私の心を読んだみたいに。