「いえいえ、お役に立てて嬉しいです。劇楽しみにしてます」

「ありがとう! それで仮面のイケメン怪人役、誰だと思う?」


 何の前触れなくクイズを出され、戸惑いながら周りを見渡す。演劇部は男子が少ない。ほぼ幽霊部員と言われている2年生と、大人しそうな1年生の2人だけ。

 彼らが主役を務める想像がつかなくて、失礼ながら何度も首を捻る。

 まさか、まさかだよね。浮かべた人物を頭から消して、もう一度考え直してみる。
 その様子を、部長は満足げにほくそ笑みながら見ていた。してやったりという顔だ。


「分からない? 分からないよねーえへへ。実は! その怪人さんが、もうすぐ来てくれます!」


 彼女が声を張り上げたとたん、部室のドアが静かに開いた。見えない向こう側にごくりと視線を凝らす。

 黒いジャージの長い足、凛々しい黒髪のショートヘア。


「噂をすれば、怪人周さまの登場ー!」


 ジャジャーンという部長の効果音と手振りで入ってきたのは、周さんだった。背丈もあるし、たしかに似合いそうだと自分の中で納得する。そして、少しだけ緊張が緩んだ。


「鹿島ちゃんがいる」


 いつもよりワントーン高いつぶやきが聞こえる。面と向かって彼女と会うのも、家で映画を見た夏休みぶりになる。それほど気まずさはなかった。


「うん、お手伝いに」


 言いかけると同時くらいに、黄色い声が周りから湧き上がった。