天女の湯と呼ばれる乳白色の湯に浸かり、部屋へ戻ると、シャワーを浴び終えた瀬崎さんがちょうど出て来たところだった。

 赤くなった足首を見て、明智さんが眉を下げる。


「温泉、ミルク色してた。沙絢好きそうだから、一緒に入れたらよかったなぁ」

「いいのよ。こんなのすぐ治るわ。先生だって、軽めだって言ってたじゃない」

「そうだけど。時間を戻せる能力があったら、クラゲに刺される前に助けるのに」


 心臓がドクンと波打つ。秘密を知っているかもしれない瀬崎さんは、どんな反応をするのだろう。


「そんなこと、人間に出来るわけないでしょ」


 腫れた足首に包帯を巻きながら、ぽつりと落とされた台詞。
 まだ速い鼓動を抑えながら、湊くんの顔が脳裏に浮かぶ。未来が見えていること、知らないの?


「……瀬崎さんは、信じてないの?」


「フィクションの物語でしかないわよ。透視とか心が読めるとか、そういうの信じたことないわ。実際にあったら、怖いじゃない」


 淡々とした口調で話す彼女は、きっと湊くんの秘密を認識していない。
 だから仕方ない反応だと頭では分かっているのに、胸が締め付けられる。

 湊くんの存在自体が否定されたみたいで、こんなことなら聞かなければ良かったと思った。