薄明の空が海を境に広がる時分。一足先に、私たちは旅館へ戻った。

 天女と龍の絵が施されたラウンジ天井の下を通り、吹き抜け一面に渡る四季の絵を眺めながらガラス張りのエレベーターで客室へ上がる。

 あとから来た瀬崎さんたちと、吹き抜けになった食事会場で合流した。
 客席が囲むようにして中心に設けられたステージで、日本舞踊を鑑賞しながら夕食を摂る。

 日舞や夜叉の身なりをした太鼓演奏は迫力があって、御膳も上品な味がした。


「ずっと思ってたけど、この旅館すごく高そうだよね」

「分かる。家族で行く場所とはレベル違い。ねえ、旅館は俺に任せろって言ってたけど。まさかここって」

「ああ、これ俺んとこの旅館」

「ですよねー」と呆けた顔の比茉里ちゃんと目を合わせる。


「そうそう。さっき待ち時間にググってみたのよ。ここ、結構ランク上位の旅館じゃない。アンタたち、お金大丈夫なの?」


 聞こえていたかは定かでないけど、明智さんと話していた瀬崎さんが口を挟んだ。


「あんまり大丈夫じゃないかも……。瀬崎さんは?」

「スマホにパパのクレジット入ってるから。でも、高校生の分際(ぶんざい)でこんな良い旅館を予約した彼の神経を疑うわ」


 素の性格をみんなに知られてから、彼女は開き直ったように毒舌が絶好調だ。


「知り合いから宿泊チケットもらってるから。みんな気にしなくていいよー。気楽に、適当にさ」


 下津くんのお父さんのご好意で、特別に無料で宿泊させてもらえるらしい。
 何も知らない瀬崎さんたちは、おいしそうに箸を口へ運んでいた。