「それはそれで合ってる。もっと褒めて良いわよ」

 いつも調子に戻った彼女がおかしくて、クスッと笑みが溢れた。瀬崎さんらしいと言うか、素直で真っ直ぐな人なんだろうと思う。

「何がおかしいのよ」と、不機嫌そうに唇を尖らせるけど、表情は落ち着いていた。
 話してくれて嬉しかった。恋をしている瞬間は、どんな人でも同じ気持ちにあるのだと知れたから。

 きらきらと光るものが足元の視界に入り、私はその場にしゃがみ込んだ。
 腕を組んでいた瀬崎さんも、必然的に引っ張られ私へ寄りかかるように膝を曲げる。


「ちょっと! 急に止まらないで」

「貝殻だ……すごく綺麗! ほら、瀬崎さんも見て」


 太陽の光で七色の虹のように輝きが生まれる小さな貝殻。


「アンタって、やっぱ気に入らないわね」


 差し出していた貝殻がパッと取られた。
 また機嫌を損なうような何かをしてしまったのかと考えるけど、瀬崎さんは貝殻を太陽にかざしてぽつりとつぶやく。


「無邪気に笑えるんじゃない。見るからに純粋そうな顔して、気に入らない」

「……え、えっと?」


 オーロラのように色を変える貝殻を眺めながら、吐き捨てるような口調で続ける。


「その顔、湊くんの前では絶対にしちゃダメよ。絶対に。沙絢の前だけは、特別に許してあげる」


 ああ、なんか気分悪くなって来たと言いながら私の被る帽子のつばをぐいっと下げて、足早にみんなの元へ去って行った。

 頬の緩みが治らない。体の底から嬉しさが込み上げて来る。顔が正常に戻るしばらくの間、両手で隠しながらみんなの後ろを歩いた。