「ほら、鹿島さん行くわよ」

「あ……はい!」


 電車が停車すると同時に、瀬崎さんに手を引かれた。
 左腕に絡まる彼女の手、自然現象で押し当てられる柔らかな胸に意識がいく。

 どうしてこんなカオスな状況になっているのかと言うと、恋セヨ乙女会がことの発端(ほったん)
 夏の終わりに、湊くんと下津くんを誘って海へ行こうという話になった。なんとか親の許可をもらって、旅行へ来ている。友達と初めての旅行だ。

 海へ着いたとたん、瀬崎さんの体がぴったりと密着している。


「アンタがボサボサしてると、湊くんが手貸しちゃうでしょう? 優しいから」


 死んで這い上がってでも監視すると言って、彼女は見下ろす角度でふんっと口角を上げた。大きな目を半分に細めて。

〝死んで這い上がる〟というパワーワードと、監視するためにこの距離感が必要なのか。多少疑問に思ったことは口にしなかった。


 旅館に荷物を置いて、目の前に広がる海岸へ足を運んだ。……とても動きづらい。

 電車を降りてから旅館を出るまでの間、ずっと瀬崎さんと腕を組んで歩いている。
 だからなのか、変なものを見るように、下津くんが私たちのことを凝視していた。背後から痛い視線を感じていたから間違いない。