「僕、全然可愛くないから。こうゆう格好の方が楽なんだよね。こうしてると、僕たち。なんかカップルみたいだね」

「それ、シャレになってないからぁ」

「冗談だよ」


 周さんは茶化して笑っていたけど、私は笑えなかった。
 やっぱり、確実に僕と言っている。学校での一人称は、私なのに。どうして。


『あの子、たぶん結奈ちゃんのこと好きだ。友達としてじゃなく、別の意味で』


 中性的な容姿であるからなおさら、僕になると困惑してしまう。こっちの周さんが、本来の姿なんだろうか。


 夕食の準備を施してから、カーテンを閉めて薄暗くなった部屋のソファーで肩を並べる。

 テレビで好きなものを選んで再生したら映画が見られるなんて。未だにレンタルを活用している私は、時代だなぁと感心した。

 一緒に作ったクッキーはほろほろしていて、とても好みの味だった。


「周さんって、中学生の時から料理部だったの?」

「中学はバレー部だったんだ。何を血迷ったのか、高校入っていきなり料理部」

「バレー部って、なんかしっくり来る。もともと料理に興味あったの?」


 きっと有力な選手だっただろうに、どうして続けなかったのだろう。


「全然。ただの気まぐれ。だから最初は後悔したよ。周りからも勿体無いって言われたしさ」

「……そっか」


 ごめんね、と心の中でつぶやく。本人がどうしたいかが大切なのに、〝どうして〟なんて思って。
 きっと、散々言われたのだろう。懐かしむ顔から、哀愁が漂っていたから。