アイボリーのレーストップスにデニムのショートパンツ。ひとつに結った編み込みを、フィル・ルージュのバレッタで留めている。

 少し早めに着いてしまったため、Mプラザの前で周さんを待つ。
 夜の世界とは正反対で、キラキラした朝は眩しい。やっぱり私には、こっちがしっくり来る。


「鹿島ちゃん」


 黒のハット帽に白のTシャツ、黒のレザーパンツにレースアップのショートブーツで現れた周さんは、周囲の注目を浴びていた。

 胸にサラシを巻いているのかと疑いたくなるような細身男子のプロポーション。目立たないわけがない。


『あの子、背高くてちょっとかっこいいよね』

『女の子……だよね?』

『いや、あれは女顔の男子でしょ』


 ひそひそと話す声がぐさぐさと耳を貫通していく。もはや、内緒話にもなっていない。

 たしか前に、身長は170センチちょっとあると言っていた。さらさらの髪も短めだ。男子と間違えられてもおかしくない要素があり過ぎる。


「何しようね。パスタでもいいし、ピザにする? お菓子もいるよね」

「ええっと……なんの買い出し? 今日は映画を見に来たんだよね?」

「映画見ようとは言ったけど、それは(うち)で見ようかなって。だから、そのための買い出し?」


 エスカレーターで地下にあるスーパーへ行くことになった。
 向かい側から上がっていく女の子たちが、こちらを見て何か言っている。少し頬を染めながら、羨ましげな顔をして。


「そもそも鹿島ちゃんの言ってた映画、もう公開してないよ。去年のだから」


 知らなかった……。
 いや、勘違いしていた。比茉里ちゃんの良からぬ言葉ばかりが頭を占領していたから、約束した時の記憶が曖昧になっている。