強い日差しが肌を刺す8月初旬。待ちわびた夏休みが始まって、10日が過ぎようとしている。

 グループココアの『恋セヨ乙女会』は、相変わらずたわいの無い文字が飛び交って、そのほとんどが比茉里ちゃんと明智さんのやり取り。

 学園祭の準備に追われる日々を過ごしている比茉里ちゃんとは、なかなか予定が合わず。明智さんは家族で沖縄旅行中だと報告があり、多くを語らない瀬崎さんのプライベートは謎のまま。

 周さんに誘われて映画を見る約束をした私は、その日を明日に迎えた今、猛烈(もうれつ)憂鬱(ゆううつ)が押し寄せている。

 行きたくないわけではない。ただ、緊張と妙な心労に襲われている。

 何を着ていくか悩み決めて、鳥も家族も寝静まる午後0時。レースのカーテンを少し開けると、藍色の空にぼんやりと浮かぶ月が見える。

 夏休みに入って、まだ一度も湊くんと会えていない。頻繁に連絡を取り合っているわけでもなければ、約束すらしていないのだけど。もう少し経ったら、連絡しようと思っている。

 どうしてもあと一歩のところで勇気が出なくて、いつも紙飛行機マークを押すのをためらってしまうから。


 ピロロンとスマホが鳴った。驚きで手から落としそうになったのを、もう片方で受け止める。

 まだ起きてる? 一言だけの文章が、ドキドキと心に効果音を流す。

 起きてるよ。打ったとたん、電話の着信音がして思わず音を切る。
 どうしようと考えながら、4コールほど見送って出た。