グループトークの招待が届いている。『恋セヨ乙女会』と記されたグループは、すでに比茉里ちゃん、明智さん、瀬崎さんが参加していた。
 誰が作ったんだろう。 瀬崎さんたちもちゃんと承認するんだ。

 頬を緩めながら、参加の文字へ指を運ぶ。
 グループに入ったとたん、ココアトークの通知音が鳴ってトークが開始された。

 せっちー 『グループ名だっさー』
 比茉里ちゃん『そのまんまじゃん』
 せっちー 『でも樹もよく言ってるわー』
 比茉里ちゃん 『え』

 やり取りを見ながら、思わずクスッと声を漏らす。


「なあに? 結奈、楽しそうだね。もしかして男の子?」


 運転しながら、お姉ちゃんがスマホを覗き込む仕草をした。一瞬だけゆらりと動いた体。


「違うよ? 危ないから、ちゃんと前見てて」

「はいはーい。例のケーキ男子なのかと思った」

「ケーキ男子?」

「ほら、コンテストの練習してた時にケーキあげた男の子。あれ、渡すために頑張ってたんじゃなかったの?」

「それは……」


 言わなくても気付いている。お姉ちゃんはそういう人だけど、いざ見透かされていると恥ずかしくなる。

 どんな子なのと聞かれて、優しくていつも助けてくれる人だと答えた。
 微笑ましいとしみじみつぶやくお姉ちゃんの声が、遠くなっていく。

 ゆらゆら動く車と同じで、心臓の奥が揺れている。
 少し期待していた部分があったのかもしれない。そばにいて、いつも手を差し伸べてくれる湊くんが、今日は現れなかった。

 都合良く会えるわけがないと、頭では理解しているつもりなのに。どうしてか不安が押し寄せて、声が聴きたくなる。


『あの子、たぶん結奈ちゃんのこと好きだ。友達としてじゃなく、別の意味で』


 さっきの比茉里ちゃんの内緒話が、胸を浮遊して離れない。
 私たちの進む方向へ、ずっとついて来る月のように。