ひとくちもらうと、水分が体に染み込んで生き返った気分になった。それを比茉里ちゃんが飲み、瀬崎さんと明智さんも口にする。


 しばらくして、目を細めながら周さんの顔を覗き込んでいた明智さんが、思い出したように口を開いた。


「ああーっ! この前の借り物イケメン女子じゃん!」

「その覚え方は、ちょっと」

「なによ、アンタ周響子だったの? 雰囲気が違ったから、全然気付かなかったわ」

「てっきりキレイな男だと思ってた」

「……どう見ても、男よね」


 じろじろと観察するような視線を浴びて、周さんはたじろいでいる。
 助けてあげなければと思いながら、比茉里ちゃんからの耳打ちにドキッと胸が揺れた。


「       」


 そんなことはない。
 心の中では打ち消しながら、言い切れない自分がいる。


 上弦の月が輝きを放つ午後8時半。
 迎えに来てくれたお姉ちゃんの車の中で、周さんへお礼のココアを送る。

 彼女が助けてくれなかったらと思うと、今でも指が震えた。