「湊くんの優しさって、たまに罪だと思うのよね」


 アイスティーをごくりと飲むと、使われていない明智さんのガムシロップをさらに入れてストローで混ぜる。あまり健康によろしくなさそうに見えた。


「あの笑顔で優しくされたら、自分は特別かもって誰でも錯覚するわ。誰とも付き合うわけないのに」


 ……どうして?
 小さく吸った息を吐いて、またゆっくりと吸う。
 何もアクションを起こさない私を見ながら、瀬崎さんは髪を耳へかけて口角を上げる。


「湊くんの秘密、知らない? ただの顔ファンなら、この際に(いさぎよ)く諦めたら?」

「違います。そんな簡単じゃないです。そんな軽い気持ちで……好きになったんじゃない」


 スカートを握る手に力が入る。悔しかった。この人も、湊くんの隠している秘密を知っているかもしれないこと。

 困っている時、いつも明るい世界へ連れ出してくれたのは彼だった。私にとって湊くんは特別な存在だから。


「いつから好きなの?」

「まだ、最近ですけど……」

「沙絢なんて1年の時からずっと好きなのよ。言っとくけど、人を好きなことに時間なんて関係ないから」


 矛盾した言葉の羅列に、一瞬思考が止まった。
 長く片思いをする気持ちは、もちろん分かる。報われない恋だと知り得ていても、想ってしまう衝動は理解してるつもりだった。

 漠然と藤波くんを好いていた2年間より、湊くんを好きになった数ヶ月間の方がきっと深い時間なのだと思う。想いの丈は時間と比例しない。

 それを瀬崎さんの口から聞けたことに驚いた。
 美人で絡みにくい彼女の印象が、話してみて少しだけ変わった。同じように恋をしている、ただの女の子なんだ。