教室に座っている時間、廊下を歩く瞬間、周りの視線が気になって仕方がない。噂が広まっているんじゃないかと心配になる。

 内緒話は自分のこと、笑われているのは知られているから。そんなことを考えてしまう。

 星名くんは優しくて素敵な人だった。変な噂が流れたとしても、訂正してくれるような出来た人だと思う。

 彼のことは何も知らないけど、藤波くんとは違う気がする。

 そんな校内でゆいいつ、部活の時間だけが気を休めていられた。


「鹿島ちゃん、すごく異様なオーラをまとってるけど大丈夫?」


 心配と顔に書いた周部長が、私の顔を覗き込む。


「あんまり大丈夫じゃないんです。でも、気にしないで」


 愛想笑いをし過ぎて頬が筋肉痛になりそう。
 これ以上、あのクッキーのことを思い出したくない。

 心を込めて作っていた時のドキドキとした胸の膨らみとか、緊張しながらも希望に満ちていた時間はもう戻らない。

 軽やかなハイヒールの音を鳴らした顧問の柘植(つげ)先生が入ってきた。


「はーい、みなさん注目。眠そうな顔と暗い顔も気を引き締めて聞いて下さい! なんとなんと! 高校料理部スイーツコンテストの1次審査通過しました! みんなおめでとーう!」


 自分で拍手をしながらテンションが最高潮に達している様子。

 高校料理部スイーツコンテストは、年に1回6月に行われる高校料理部対象のお菓子作りのコンテスト。
 毎年違うお題が出され、参加高がチームでスイーツを作る競技。

 空高は毎年参加している。昨年は1次審査は通過出来たけれど、入賞する事は出来なかった。