「あ、あの……好きだからって、そ、そうゆうことはやめた方が……いいと思います」


 徐々に小さくなる声を振り絞りながら、小刻みに震える足を踏ん張った。
 小心者のくせに、らしくない行動をしたことに今更になって怖気付いている。今すぐにでも逃げ出したい。


「好きって、誰が?」


 気の抜けたような藤波くんの声に、加速していた鼓動が少し遅まる。


「あの……藤波くんが」

「誰を?」

「瀬崎……さんを?」


 微妙な空気に耐えかねて、作業台を見つめる。何かを感じ取ったのか、気まずそうな表情の比茉里ちゃんが「どーもどーも」とお笑い芸人のように姿を出した。
 瀬崎さんが、げっと言う表情をする。


「違うの? じゃあ、ここで何してたのよ」


 腕組みをした比茉里ちゃんが、藤波くんへ疑いの眼差しを向ける。
 動揺するどころか、彼は呆れたような目をして顔をしかめた。


「気持ち悪りぃこと言うのやめてくれ」

「やば、鳥肌立ったんだけど」


 青ざめた顔で腕を抱えると、瀬崎さんは肩を震わせる仕草をしてみせた。今にも「ふざけないで」という罵倒が飛んできそうな表情。

 何かがおかしい。比茉里ちゃんと顔を見合わせていると、近付くでため息が落とされた。


「学校で話しかけられたくねーなら、いい加減ココア教えろ。こっちもな、いちいち親の伝言係になんの面倒なんだけど」


 用件を話し終えたのか、彼は何事もなかったように準備室を出て行った。