そして、現在に至る。

「その人って、中学時代の先生なんじゃない?」


 耳元で小さく放たれる声に心臓を押しつぶされなから、シーッと人差し指を立てる。見つかったら、何を言われるか分からない。


「お願いだから、もう沙絢(さあや)に話し掛けないで!」

「だから、なんでそうなるんだよ」

「付きまとわないでって言ってるでしょ!」


 只事ではない雰囲気に、思わず息を呑む。
 たしか、藤波くんは瀬崎さんの事が好きという噂があったはずだ。

 丸めた背中が比茉里ちゃんと密着する。聞いてはいけないとしながら、小動物のように耳は研ぎ澄まされていく。

 尋常じゃない心臓音を鳴らしながら、つま先で屈んでいる私の足はぷるぷると震え出していた。


「さっき沙絢って呼び捨てしてなかった? あの2人どうゆう関係なんだろうね」

 蚊のように囁く声を聞いて、ふとある場面を思い出す。


『沙絢のこと好きなんか?』


 そういえば、体育祭の時も瀬崎さんを名前で呼んでいた気がする。


「とりあえず落ち着けって」

「ちょっと、やめて! 触らないでよ」


 嫌がる声が準備室に響く。何か嫌な予感がする。
 気付くと机の下から飛び出して、私は2人の間に割り込むように立っていた。

 目を丸くする彼ら以上に、ここにいる自分自身が一番驚いている。