慌てて指先で涙を拭う。拭いても、また拭いても流れる感情。


「気持ち悪いよね。自分の知らない明日を見られてるとか」

「……違うの。そうじゃなくて、ただ」


 虚しかった。いつも助けてくれる理由が特別なものではなかったこと。
 予期した現実があったから、手を差し伸べてくれただけに過ぎない。その事実に、がっかりしたんだ。そして、少しでも期待を抱いていたその節々の自分に。

 湊くんの指が頬に触れて、優しく(しずく)を払う。じんわりと体温が伝わって、さらに体を熱くする。


「ほんとは、ずっと話したかったんだ。結奈ちゃんには、知ってて欲しかったから」


 同じだ。とても寂しげで切ない色。心に湧き上がっていた声が、現実にも落とされた。

 ぱらついていた雨が姿を消して、空に七色の橋が現れる。傘を閉じた湊くんが遠くを見つめて微笑む。


「……虹だ」

「こんなはっきりした虹、初めて見た」


 幻想のように浮かぶ模様は、存在を主張するように美しく光を放っていた。ないものが生み出される感覚を覚えた気がした。


「湊くんが見てる世界……もっと教えて欲しい」


 そっと触れた指先が、今度はキュッと指を掴んで。しとやかに絡まって。もう傘はないのに、変わらない近付いたままの距離が胸をときめかせる。

 だから余計に苦しくなった。
 私の想像する声は、いつか未来の声を聞いていると知ったから。

 湊くんから別れを告げられる日が来ることを、確信することになったから。