「……雨が降ること、最初から分かってたみたい」

 ひとつの傘の中で見つめ合う。このシュチュエーションでドキドキするなと言われる方が難しいけど、素早く脈打つ原因は他にもあって。

 体育祭の時も、そうだった。屋根が落下することを知っていたようなタイミングで、助けてくれた。


「僕、未来が分かるんだ」

「……ミライ?」

「自分に関わる一部の人の未来だけ、断片的に見える。中学生の時から、ずっと」


 それは3秒後かもしれないし、1時間後、もしくは1週間後かもしれない。
 いつ起こる出来事かは予測出来ないけど、映画のワンシーンを見ているように、自分や周りの人たちの未来が脳裏に浮かぶと湊くんは言った。

 思い出すのは出会った日のこと。初対面の私に、クッキーを欲しいと言ってきた湊くんを不思議に思いながら、おいしそうに焼けていたのだろうと勝手に解釈していた。


 でも、違ったんだ。あの時、湊くんは私のクッキーが受け取って貰えないことを知っていたから、藤波くんへ渡さない選択をさせようとした。

 コンテスト会場へ寄ってくれたのも、瀬崎さんがバレッタを持っていたこと、借り物競走で好きな人というお題を引いたことも全部知っていたから助けてくれた。そういうことだった。


「笑わないの? なにファンタジーなこと言ってるのって」


 上下の唇を結びながら首を振る。
 未来が見えるなんて、そんな非現実的なことがあるわけない。小学生の私なら、きっとそんな言葉を浮かべるだろう。
 クラスメイトの秘密を想像して、わくわくしていたあの時でさえ。

 まだ止まない雨が、真実を物語るように傘の上でワルツを奏でる。その音を聞くと胸が切なくなって、濡れていないはずの頬を雫が伝った。


「……どうして泣いてるの?」