さっきの会話が比茉里ちゃんにも聞こえていたようだ。
 当の本人である私より取り乱した様子で、握っている箸が折れそうになっている。


「アイツのせいで弁当が不味くなる!」

「あ、あの子の話、間違ってるところも多かったよ。あそこまで卑劣(ひれつ)な言い方はされて……ないよ」

「そうだとしても」


 溜まっていたうっぷんを晴らすように、比茉里ちゃんの言葉はエスカレートしていく。

 何も言えなくなった私は、もぐもぐと黙って口を動かすことしか出来なくなった。


「女子に点数付けてたんだよ? 1年の時からクズだったんだよ、あの藤波宗汰って男は!」

「……そんなことあったんだね」

「後期は席が近かったから、休み時間に男子が話してるの聞こえてた。あの時から気に入らなかったけど、さっきの話聞いたら腹が立って仕方なくて!」


 キィー! と奇声を上げる勢いで歯を食いしばって、ジタバタと足踏みをしている。余程腹が立ったみたい。


「結奈ちゃん、さっきから何も言わないけど大丈夫? あの男の本性知って幻滅した?」


 少しばかり落ち着きを取り戻したように、彼女は眉を潜める。


「全然大丈夫じゃないよ。ショックだし思い出すとまた涙出そうになる。でも、比茉里ちゃんが変わりにたくさん言ってくれたから。ちょっとスッキリしたの。ありがとね」


 強がりな笑みが表情を独占している。
 男子に臆病な私に恋を教えてくれた人だから。大切にしたかった気持ち。今になって、心に溜まっていた波が水際まで押し寄せて来た。


「気持ちを伝えられたら、何か変われるかなって思ったの。少しでも、仲良くなれたらって……思っただけなんだけどな」


 思い続けていた日々を、私の存在自体を否定されたみたいで悲しかった。藤波くんが怖くなった。


 ーーもう二度と、恋なんて出来ないだろうな。