緩やかな遊歩道。噴水がある公園を通り過ぎて、銀杏並木を歩く。合わせてくれているのか、背丈に対して湊くんの歩幅が狭く感じた。

 いつもだったら胸を弾ませているところなのに、今は肩を並べていても心ここにあらず。


 足を止めたのは、可愛らしい小さなドアの前。小学生の子どもが入れるほどの高さで、(かが)まないと通れない。

 グレーがかった青色の建物は木に囲まれていて、「it's a eat」の文字とウサギの絵が書かれた看板が掛けられている。

 背を低くして店内へ入ると、真っ白な壁に描かれたトランプ兵やウサギが出迎えてくれた。


「……不思議の世界に迷い込んだみたい」


 あまりの可愛さに、心の声が押し出される。


「気に入ってくれた?」

「うん、とっても」

「休憩してから、元気なさそうに見えたから。疲れさせちゃったかなと思って、気になってたんだよね」


 言いながら湊くんは少し眉を下げて口角を上げる。心の中で、ごめんねと何度もつぶやいた。
 会う約束をしてから、ここへ連れてこようと考えていたと聞いて胸が熱くなる。


「……好きです」

「なら良かった」


 店の外観、内装の雰囲気も全てが好みだった。なにより、湊くんの優しさが好き。
 みんなを幸せな色に包み込むその笑顔も、見返りを求めているの? どんな秘密を抱えているの?

 見えない境界線がある気がして、心のどこかに、絵の女性が存在しているんじゃないかと思って、息が苦しくなった。


 ピンクのフィットチーネを使ったチェシャ猫のクリームパスタが運ばれて来る。
 デザートは、ウサギの耳が付いたカップケーキとトランプのチョコが乗ったタルトケーキセット。

 どれも可愛かったけど、正直味が分からなかった。