3冊のスケッチブックが机に並べられた。1冊は表紙が色褪せて年期が入っている。あとの2冊は比較的新しく感じた。

 古くなったスケッチブックを手に取った。殴り描きされた鉛筆の線は、物や花に始まり景色へと変わる。
 次第に立体感が生まれて、ページを(めく)るたびに美しさを増していく。

 呼吸をするのも忘れて追う。次のページを見た瞬間、心音と手が止まった。

 紙が無造作に破られていて、最後の一枚だけが残されている。
 こちらを見て微笑む女の人。緩いウェーブがかった髪に、透き通った瞳が印象的。落ち着いた雰囲気が漂う大人の女性。


 突然、目の前のスケッチブックが取り上げられた。
 慌てた様子の湊くんが「ごめん」とつぶやく。いつもならしない彼の反応に、心が凍ったように動けなくなる。


「それ、中学の頃に描いた物だから」


 気まずそうに絵を閉じる表情は、それを隠したいように見受けられた。
 これ以上は触れられたくないと、シャットアウトされたように響く不穏な音。


「こっちは高校に入ってから描いたものだよ」


 きれいな表紙のスケッチブック。私は必死に目を向けた。今の衝動を忘れるために。

 鉛筆や絵の具で描かれた絵は細かい部分まで繊細で、どれも素敵だ。人物画では、瀬崎さんや美術部で見たことのある人がいた。


「ほんとに絵が好きなんだね」

「小さい頃から、好きでよく描いてたんだ」

「……うん、すごく伝わった。ひとつひとつの線が繊細で、特に中学……」


 そこで言葉を飲み込む。さっきの絵を口にしない方がいいと、小さい脳なりに分かっていたから。