どれくらいの間こうしていただろう。
 葉漏(はも)れ日が差すこの場所では、夏の日差しはそれほど気にならなかった。植物が日傘の代わりをしてくれたから。

 鼻の頭、うなじが薄っすらと湿って来た。(ぬぐ)いたくても動けない体は、余計に私を()らす。


 休憩をするためにリビングへ戻るとすぐ、ティッシュでじわりと滲む汗を押さえた。

 海のような青いグラスコップにアイスティーが注がれて、そわそわした気分になる。どこか落ち着かなくて、不揃いに揺れる氷を眺めながら気持ちを落とす。
 この光景を、瀬崎さんも見たのだろうか。


「……他にも、誰か描いてるの?」


 ずっと胸の中を彷徨っていた言葉が、飛び出した。グラスの氷が、からんと音を立てて沈む。


「最後に描いたのは1年以上前かな。誰かをモデルにしたのは、結奈ちゃんが久しぶりだよ」


 探りを入れるみたいな質問をして、私はどうかしている。
 初めは話せるだけで幸せだと思っていたのに、どんどん欲張りになっていく。


 不思議そうに首を傾げる湊くんを見て、その色は強くなる。
 たとえ彼の優しさが見返りを求めていたとしても、もう少しその温度に触れていたい。


「良かったら、湊くんの絵を見てみたいな」