「えっ、え? それは、服を……ですか?」

 ここへ来て、初めて意識が飛びそうになる。


『ヌード?』

『アイツも普通の男子高生だからね。頭の中は何考えてるか分かんないよ?』


 いつかの下津くんの言葉が脳裏を過ぎる。

 湊くんに限って、そんな人ではないと頭では思いながら。デニムジャケットの前をギュッと掴んだ。


「あの、そんな大した体ではないので……出来れば顔だけの方が……」

「ちょっといい? うん、やっぱり白いワンピースだけの方が映えるね」


 デニムジャケットの袖をずらした湊くんが頷く。
 ジャケットのことを言っていたのだと知って、顔が爆発しそうになる。勘違いもはなはだしい。

 まだ火照る頬が冷めやらないまま、ウッドデッキから広い庭へ出た。
 立派な木と花に囲まれた白いベンチへ腰を下ろすと、おとぎ話の世界へ入り込んだ感覚になった。

 鉛筆の芯が紙と擦れる音がする。心地よい空気と、ほどよい緊張が私の肌を撫でる。


『絵を描いてくれてる時の湊くんって、すごくかっこいいのよ。目が真剣で、凛々しくて』


 嫌なことを思い出した。
 この場所で、瀬崎さんも同じように描いてもらったのかな。

 横を向いているから、私は目を見ることはないけど、湊くんの真っ直ぐな眼差しを感じている。

 この瞬間は私だけのものであって欲しいと思うのは、変なことかな。
 黙っていると、要らないことばかりが頭を埋め尽くす。