アーチのニッチがある広い玄関を通り抜け、リビングへと入った。レンガで囲まれた暖炉の前へ誘導されて、ソファーに腰を下ろす。

 簡易植物やダリアの花が飾られていたりと、部屋には女の人の存在が散らばっている。
 温かみのある可愛らしい雰囲気は、おばあさんの趣味なのかな。


 見渡していくと、テレビ横に飾られている写真に目が止まった。外国の男性と日本人の女性、小学生くらいの女の子と男の子が写っている。

 茶髪の色白の男の子は、もしかして……。


「それ、僕の小学生の頃の写真だよ。おじいちゃんとおばあちゃん、僕の隣りにいるのが3つ上の姉さん」


 ジュースを運んで来た湊くんが、写真を手に取って教えてくれた。

 雪のような肌の白さや色素の薄い瞳、柔らかそうな髪質。写真の中で笑うおじいさんは、どことなく彼と雰囲気が似ている。


「……かわいい。湊くんって、お祖父ちゃん似なんだね」

「おじいちゃんウクライナ出身だから、僕はそっちの血が強いみたい。隔世遺伝ってやつかな」


 日本人離れした容姿に納得。
 中学生になった頃から、祖父母の家で育ったらしい。

 1年前、祖父母がウクライナへ移住したため、今は週に一度ほど家政婦さんが手伝いに来てくれているそうだ。

 特別な女の子の存在が消えて、少しホッとする。

 中学生の時に親元を離れる覚悟なんて、私にはなかった。だから、尊敬する。


 キャンバスと水彩絵の具を持って、湊くんがレースのカーテンを開けた。ほどよい日差しが雪崩れ込み、さらに部屋を明るくする。


「早速だけど、描かせてもらってもいいかな」

「あ、はい! 私はどうしてたらいいかな?」


 家に2人きりだなんて、もっと緊張して頭が真っ白になると思っていた。
 和やかな家の雰囲気と、優しい湊くんのおかげで落ち着いていられる。


「うーん……そうだね。やっぱり、脱いでもらっていいかな」