「誰にでも、秘密にしておきたいことってあるから。知られたくないことも、あるし。でも……」


『僕のこと、嫌いにならないでね』


「もっと知りたいと思うのは、いけないことですか?」


 背中越しに問いかけた小さな声が、風に攫われていく。
 ふわっと体が引き寄せられて、湊くんの腕にすっぽりと抱き締められた。
 目の前が真っ白になって、鼓動が一気に加速して行く。


「あ、あの……湊くん?」

 心臓の音が聞こえる。湊くんの響きも、同じように速い。


「借り物の時……結奈ちゃんの声、ちゃんと聞こえてたよ。すぐに向かえなくて、ごめんね」


 周りに掻き消されたと思った振り絞って呼んだ名前は、湊くんに届いていたんだ。

 締め付けている腕の力が、さらに強くなって、胸がキュッと狭くなる。


「もう少しだけ……このままでいさせて」


 緊張で動けなくなった体は、ただ立ち尽くしたまま湊くんの温もりに包まれていた。込み上げる熱と、弾け飛びそうな心臓。

 そして、微かに聞こえた涙の音に、呼吸の仕方が分からなくなる。

 知らない方が幸せなこともある。
 そこへ辿り着くには、まだ心が青い。