「いつも必ず助けてくれて。でも、心に湧き上がる声はすごく寂しそうで」

 思えば、出会った時からそうだった。
 藤波くんのために作ったクッキーを欲しいと言ったり。スイーツコンテストの会場に来て、落ち込んでいた私に特別賞と励ましてくれた。

 困った時には、いつも傍に湊くんがいて。それと同じに、

 ーーだから、さよならだね。


 想像の音も切なく響いた。この笑顔の奥には、きっと誰も知らない湊くんがいる。


「……寂しそう?」


 無理して(つくろ)うような笑顔から、曇りが見えた。


「ただの想像だけど、そうじゃない気がして。聞こえるたびに、苦しいです」


 雨の音。空がひっそりと涙を流すように、しとしと聞こえて。穏やかな声が、力なく消えていく。

 これは、私の頭中で繰り広げられた幻聴に過ぎないけれど、何度も聴こえるのは意味がある気がして。


「さっきの話……聞こえてたよね?」

 ざわわと、風が吹く。草木を揺らして、さっきの言葉を脳裏に呼び返す。


『君には分からないよ』


 まるで自分に言われているみたいだと思った。

 特別な感情がなくて、親切にすることの何が悪いの?
 湊くんの気持ちを理解することは、私にだって出来るはず。


「僕の優しさは、見返りを求めているから」


 失望したよねと、微笑む瞳がとても(うれい)でいた。

 そのまま去ろうとする後ろ姿に胸が締め付けられて、私はジャージの袖を掴んだ。行かないで、と心の中で唱えながら。