「昨日、見ちゃったんだって! 星名くんがお菓子もらってるところ!」


 先生の諸事情で20分間が自習となった数学の選択授業。7組と8組の半数ずつが合同で行われている。

 真面目に勉強する、私語をする、寝ている人がいる中で耳を貫いて来た8組の女子の声。冷や汗が止まらない。

 いけないと思いながら、身体中の全神経が彼女の話に集中している。


「その子、受け取ってもらえたん?」

「星名くん優しいからね。あんなことになるなら、私が貰えば良かったかなぁ」

「なになに、どういうこと?」

「話せば長くなるんだけどさ〜」


 シャーペンを持つ手が小刻みに震えている。頭の中が雲で覆われたように真っ白になった。

 彼女の口から出て来たのは、有る事無い事を面白おかしく語られた作り話。些細な笑い声が胸を苦しくする。

 どうしてそんな嘘を付くの?
 人の悲しみを笑い話に出来るの?

 私の名前は出てこなかったけど、まだ癒えていない傷口から血が流れていく。

 溢れ出そうな涙を何度もこらえながら、残りの授業を上の空で受けた。


 ダンダンと地面を踏み付ける苛立ちの音が鳴る。濁点のついた声を上げる比茉里ちゃんは、いつになく頬を膨らましていた。


「やっぱり藤波はサイテーな男だった! 前からそうだと思ってたけど、本当に最低、クズ、ゲス野郎!」


 昼休みの中庭、太腿の上で弁当を広げながら吐き捨てられた言葉。隣で青ざめた顔をしている私。