午前の部が終わった昼休憩。裏庭を抜けて旧体育倉庫横に備えられたトイレへ向かう途中、木陰に立つひと組のカップルが目に入った。

 引き寄せられるように顔を近づける彼らから、慌てて目を逸らす。

 体育祭・学園祭マジックと言って、イベント行事の盛り上がった延長で付き合う人がいると耳にしたことがある。

 さっきのクラスメイトも、きっとそのマジックとやらだろう。つい先日まで、彼女が欲しいと騒いでいたから。


 トイレで手を洗いながら、ふと思う。私はどうなのだろう。

『好きな異性じゃなかったなら、私を指名してくれても良かったんだよ』と比茉里ちゃんから言われた時、確かにと納得した。

 そもそも、彼女はトイレに立っていたから、無理な話ではあったのだけど。

 湊くんしか、頭になかった。

 手を握ってドキドキした。
 もう少し触れていたいと、心が言っていた。それは、付き合いたいという感情とイコールで繋がるのかな。

 湊くんのことは好きだけど、まだよく分からない自分がいる。
 近付きたい気持ちと、この関係が変化していく不安が織り混ざっていく。


 旧体育倉庫の壁から少し顔を出して、カップルがいないことを確認する。人目の付きにくい場所ではあるけど、学校でキスをするなんて信じられない。

 思い出して、再びのぼせ上がる頬を叩いて気を紛らわせようとした。


「……なあ、この際だからはっきりさせろよ」