「あの……ありがとう」


 気付いてくれて、それとも一緒に走ってくれて。どう付け加えるべきか正解が出なくて、抽象的なお礼しか言えない。

 3着の場所に肩を並べてしゃがみ込む。


「あのお題は誰でも困るよ。もしかして、他に走りたい人いた?」


 慌てて首を横に振った。「なら良かった」と、綺麗な顔が私を覗き込むようにして笑う。
 その意味を追求したところで、答えを得られるわけではないのに。少しだけ、心臓が速くなるのを止められない。


「可愛い男子か、カッコいい女子。確かに、イケメンなのでクリアです! それにしても整ってますね。お名前聞いてよろしいですか?」

「えっと、あまね……」

宝月(ほうげつ)歌劇団の美しき王子のようで……」


 サーッと顔から血の気が引く。お題の答え合わせがあることを忘れていた。


「3着のお題は、好きな人でした。いいですねぇ、青春ですねぇ!」


 マイクから声が飛び出した瞬間、団席から女子と思われる奇声が聞こえて来る。

 必死で気付かなかったけど、たぶん走っている最中もあったのだろう。今更になって、冷んやりとした汗が背筋を流れた。


「僕が勝手にって言いたいところだけど、アウトになっちゃうと困るから。今はヒミツね」


 口元に人差し指を当てる仕草をして、湊くんは優しく微笑む。

 キラキラした瞳を見つめながら、自分の右手に意識が行く。大きな彼の手は、私の指を包み込んだままだ。

 ドキドキと脈を打つ波が収まらない。
 2人にしか見えない角度で繋がれた手に、どんな意味が隠されているのか。そればかり考えていた。