「エルアート品揃え良かったから、みんなから好評だったよ。瀬崎さん、ありがとね」

「そ、そんな……楽しんでもらえて、良かったわ」


 デートだと勘違いしていたのは、部活の買い出しだった。それも、2人ではなく部員の何名かと一緒だったらしい。

 それなのに勝手な妄想をして、失礼な態度を取った。


「……あの、この前はごめんなさい。私、てっきり」

「ううん。元気戻ったみたいで良かった。じゃあ、またね」

「……うん、ありがとう」


 小さく手を振りながら、落ち着かない胸の音を抑えて。まだ隣から感じる圧に少し視線を向ける。

 上下の唇をキュッと結んだ瀬崎さんが、こちらを睨むようにじろりと見た。


「ああ、腹が立つわ。鹿島さんって、むかつくくらいお人好しよね。どうして沙絢が持ってたのか、普通なら怒って聞くでしょ。湊くんがいたから良い子ぶったの?」


 2人になった時、面白くなさそうな声がした。荒ぶるようなものではなく、比較的落ち着いているように感じる。


「どうして……ですかね。でも、怒るより嬉しさの方が強かったので」


 長いため息を吐いたあと、瀬崎さんはくるんとした髪を揺らして。猫のようなぱっちりした瞳をきらりと光らせる。


「負けないから。純粋ぶったその化けの皮、いつか剥がしてあげるから覚悟しなさいよ」


 ふんっとした態度で彼女は去って行った。
 いろいろと言われたけれど、実はあまり覚えていなくて。

 今ここに残っているのは、ずっと握りしめていたバレッタ。失くして初めて知る事実。
 特別な想いだけが、私の心を埋め尽くす。