「結奈ちゃんの誕生月、3月だよね?」

 こくんと頷く私を見て、瀬崎さんは下唇をキュッと噛んだ。

 誕生日を知らないはずの湊くんが、どうして知っていたのか。そんな疑問より、嬉しさの空気で胸が埋め尽くされていく。

 裏側に掘られたyunaのローマ字を見て、瀬崎さんは観念したように眉を下げた。気まずそうに髪を片耳にかけて。


「鹿島さんのだったなんて、知らなかったのよ。ごめんなさい」


 いつもの甘えた感じではなく、少し悔しそうな声だった。

 花柄のポーチとバレッタが手元に返ってきた。迷子になった我が子と再会したみたいにホッとして。失くなった理由はどうでもよく思えて、ただひたすらにこの手から離さないと思った。


「見つけてくれて、ありがとうございます。ほんとに……よかった」


 誕生石が入っていたこと。名前の刻印があったこと。何も知らなくて、でもこのバレッタには特別感があった。

 私のためだけに、湊くんが考えてくれたものだったからなんだ。


「じゃあ僕は用があるから、少し遅れること伝えておいてもらえるかな」


 なんのことだろうと首を傾げる。隣の瀬崎さんが、バツの悪そうな表情をして「うん」と頷いた。

 瀬崎さんも美術部員だったと初めて知った。湊くんと一緒にいる場面を見かけるのが美術室の前だったのは、それが理由だったんだ。

 もしかしたら、あの時の約束はーー。