「これ、僕が貰ってもいい?」

「え、えっと、でも、それ……」


 頭の整理がつかないまま、私は背を向けていた。

 紙袋の中には、藤波くんへ宛てたメッセージカードが入っている。

 精一杯、勇気を出した言葉。友達になって下さいと書いた想いは、渡したはずの人には届かなかった。

 知られたくない。だから、星名くんには返してもらわないと。


「あ、あの」

 鼓動が波のように揺れている。不安と恐怖、緊張に押しつぶされかけて。

 すると、星名くんが紙袋から小さな封筒を取り出して、私の手のひらにそっと握らせる。
 その行動に無駄はなく拒否する間もなかった。

 いくつもの中から選んで買った桜色のカードが、今となっては虚しく見える。

 胸をときめかせていた時間が、崩れていく。


「甘いもの好きだから。僕が食べてもいいかな?」


 この人は気を遣ってくれている。きっと、そう。


「えっと、も、申し訳ないです。ありがとう……ございます」

「どうして謝るの? 僕が貰う方なのに」

「だ、だって……」


 星名くんのために作った物じゃないのに。でも、不味かったと思われるよりは良いのかな。


「名前、まだ聞いてなかったよね。僕は2組の星名湊」

「7組の……鹿島結奈です」


 緊張の糸が少しずつ解けていくように、体が軽くなっていく。不思議な気分。


「ありがとう」

「お礼を言うのは、私の方です。ありがとう、ございます」


 震える声を振り絞る。その言葉を伝えるだけで精一杯だった。さまざまな感情が入り乱れて、何も考えられない。

 ただ、ひとつ。天使は本当に存在するんだと、夕日に染まる彼の笑顔を見て思っていた。