瀬崎さんと並ぶ姿を思い出して、デートを約束する言葉が脳内に再生される。

 入り込む隙間などなくて、仲の良さを見せつけられた気がして。ありふれた自分が急に恥ずかしくなった。


「気にしてたから、会ったら話してやってよ」

「……うん」


 どこにでもあるものは、いつでも手に入るから特別感がない。この箱の中で眠るものと同じ。持ち主に忘れ去られていく。

 それに比べて、美しくみんなが羨むものは優越感があって、欲しくなるのが人の(さが)

 目立たなくて、他人より優れたものがあるわけでもない。だから、私はダンボールの落とし物。


「下津くんってさ……」

 言いかけた比茉里ちゃんの唾を飲む音が聞こえた。何か続くはずの文字を飲み込んだ音。

 首を傾げる私に「やっぱなんでもない」と笑った彼女の目は、少し力なく見えた。


 探せない心残りを口にして部活へ行った比茉里ちゃんと別れて、教室へ向かう。

 いつもと様子が違って感じたのは、気のせいじゃないと思う。
 でも、あまり触れてほしくなさそうな空気が心の言葉を制止した。

 演劇部の練習で疲れているようだし、大丈夫かな。


 階段を上がる最中、突然現れた人影に驚く。
 上の階から駆け下りて来たようで、危ないと思った時にはぶつかっていた。反動で互いに尻もちをついた。


「すみません」

 物思いに(ふけ)っていたから、反応が遅くなった。
 慌てて体を起こすと、不服そうな表情で腰を上げたのは瀬崎さん。スカートの(ほこり)を払いながら、ふんっとした態度で私を見ている。


「危ないわね。気を付けなさいよ」

「……すみません」


 お互いに不注意だったとか、一方的に責められたことより意識を持っていかれたのは、あったから。

 きらりと光るバレッタが、彼女の足元に落ちていた。ビジューの形や色味、控えめだけれど華やかさのあるデザインは私のだ。

 ちゃんと確かめたくて手を伸ばした時。
 長い指が私より先にそれを拾い上げていた。