職員室前に設置されている落し物コーナー。黒いベルトやレンズの外れた眼鏡、キャップのないボールペンなどがダンボール箱へ無造作に入れられている。

 みんなに引っ掻き回されて、壊れてしまったのだろう。

 目を引くであろう桜色のポーチは、見当たらなかった。がっかりというより、やっぱりの方が強い。

 ほんの少し望みはしていたけど、心の底では分かっていた。きっと、ここにはないこと。

「他探す?」と腕を引く比茉里ちゃんが、あっと小さく声を上げた。


「なんでそんなとこ探ってんの? 何か落としたー?」

 いつものヘラッとしたゆるい感じで下津くんが近付いてくる。

 抱き寄せられた時のほんのり甘い匂い。昨日の光景が脳裏に蘇って、不自然に体が強張る。
 その現象とバレッタを失くしたことを知られたくなくて、私は曖昧な態度を取った。


「今、他当たろうって言ってたとこだよね」

「……うん」


 ぎこちなさに気付いてなのか、比茉里ちゃんが言いたかった台詞を代弁してくれる。


「俺も一緒に探そっか?」

「下津くん、職員室に用があるんじゃないの?」

「よく分かったねー。比茉里ちゃんって、俺のストーカー?」


 ちゃらけた笑顔に、ぷくっと頬の膨れた比茉里ちゃんのため息が落ちる。


「さっき放送で呼び出しくらってたじゃん」

「そうそう。そうなんだよ」なんて適当な返答をして、下津くんは私たちにバイバイと手を振った。

 職員室のドアを開ける時、何かを思い出したようにこちらを見て。


「そーいえば、結奈ちゃん。湊と何かあった?」