「瀬崎沙絢が嫌がらせで盗んだかもしれないじゃん? あの人、謎の行動が多い」

 たしかに、動機はないわけじゃない。
 昨日、私を尋ねて来たみたいだけど、特に何もなかった。不思議な行動だと言えばそう思えるけど。


「学年一の美少女って言われてて、湊くんとも仲良いのに。私に嫌がらせする必要あるかな」


 容姿、品格、知名度、その他もろもろ。瀬崎さんに勝ることなんて、ないにほぼ等しい。

 絵具で描いたような美しい天色(あまいろ)の空から、ひらりと葉が落ちて来る。


「いくらでも理由は作れるよ。それに、結奈ちゃん。瀬崎沙絢より、うーんと可愛いからね?」


 ビシッと人差し指を立てて、比茉里ちゃんが私の頬を突く。


「えっ、ええ?」

「あたしは心配してんのよ。あなた純粋の(きわ)みだから。いつか変な奴にコロッと騙されちゃいそうだもん」


 両頬をぷにーっと引っ張っりながら、「1人で抱え込んじゃダメだよ」と笑った。


「ありがとう」

 そんな優しく頼もしさのある笑顔に釣られて、私の顔にも花が咲く。

 初夏を知らせる青葉の香りがした。いつもと少し違う空気が、小さな胸を占める。