「あ、あの! それ…… 」


 呼び止めたら「まだ何か用?」と言いたげに、瀬崎さんは不機嫌そうに目を細めた。


「その、バレッタ……可愛いなって」

「そうでしょう? 色使いが綺麗よね。気に入ってるの」


 ふわりと髪がなびく。ふふっとしたり顔をした彼女。バレッタはカッターシャツのポケットへと消えた。

 瀬崎さんの小さくなる背中を見つめるだけで、何も言えなかった。

 フィル・ルージュのアクセサリーは女子高生にも人気があるため、瀬崎さんが持っていてもおかしくない。それに、似ているデザインは他にもある。

 早く見つけたいという気持ちが先走っているのかもしれない。

 だけど、あの色味の組み合わせはどこか特別感があったの。
 私だけのものだと、独り占めしたくなるような。湊くんがくれたものだから、余計に。


「今のってさ、結奈ちゃんのバレッタに似てなかった?」

 ぐいっと腕を絡め、身を寄せる比茉里ちゃんが声を(ひそ)める。

「一瞬そう見えたけど。さすがに、それはないよね」

 もしも落ちていたのを拾ったとしても、瀬崎さんがわざわざ校内で付けるとは思えない。