「元気出して。あとで校内の落し物コーナーも探してみたら?」

「ありがとう。そうしてみる」


 いつもより1時間早く家を出て、昨日通った道を黙々と探し歩いて。バスの運転手にも確認した。

 駅のホームや学校へ行く道も隈なく探した。側溝、ガレドレールの下、校門の花壇にもポーチは見当たらず。

 教室に行くまでの廊下にもなく、昼休みになった現在、私は肩を落としている。

 箸が進まない私の横から、比茉里ちゃんがフォローを入れてくれた。


「でも、変な話だよね。勝手になくなるなんて、ポーチに足でも生えてんのかって……」

「そんな、可愛くないわよ〜」


 比茉里ちゃんの声に重なって、校舎の通路から女子の話し声が聞こえて来る。
 愛らしく感じるのであろう猫なで声。今、あまり耳にしたくない声……。


「あら」

 こちらを見て少し曇った表情を浮かべる瀬崎さんが歩いて来た。
 今日は女友達と一緒だと知って、ホッとしている。


「最近よく会うわね。あ、昨日……走って帰っちゃったけど、大丈夫? 湊くんと何かあったの?」


 ふふっと涙袋を膨らませた笑みは、悔しいけど整っていて。どうして立ち去ったのか、分かっていて言っている。
 目に優越の色を映しているから、きっとそうだ。


「仲直り出来るといいわね」


 セリフとは裏腹な弾むような声。周りから高嶺の花と言われる笑みを浮かべると、綺麗な内巻きロブをふわりとなびかせる。

 瀬崎さんの後ろ髪を見た瞬間、雷が走ったような衝撃が心臓を打った。

 品良く髪に留められた、アーモンド型のビジューと散りばめられたパールビーズ。失くしたバレッタによく似ている。