「結奈は小さい頃からそうだったね。お友達が引っ越す時にくれたキーホルダー、お父さんに貰った貝殻のネックレス、卒業式で先生が思い出にくれたボールペン。大切に持ってたものは、全部無くしちゃって」


 穏やかな語り口は、思い出す度にふふっと笑って。


「でも、全部見つかったじゃない」

「受験のお守りは失くしたままだったけどな。ばあちゃんがくれたやつ」


 ダイニング横のカウンターで宿題をしていた悠真が、匂いにつられてか話に割り入ってきた。


「こらっ、悠真。余計なこと言うんじゃないの」


 シッ! と人差し指を立てて、母が歯を見せる。
 ちゃんと覚えている。私は幼い頃からそそっかしくて、よく失くし物をしていたこと。

 大切な人に貰った物は、肌身離さず持ち歩く癖があって。少し気を緩めた時に、いつもどこかで失くしてしまう。

 必死に探し歩いて、見つからなくて。諦めかけた時、ふとした拍子に出てくるの。

 だけど、祖母から貰ったお守りは見つけられなくて、相当ショックを受けていた記憶がある。
 それからは、もっと気を付けるようにしていたのに。


「電車で鞄を開けてないなら、絶対に学校にあるわよ。明日、ちゃんと探しなさい。ほんとに大切なものは、いつか手元に帰ってくるから」

「うん」


 今夜は、三日月が綺麗に浮かんで夜空を照らしている。暗闇を彷徨う私を導くように。
 どうかーーと願いを込めて、眠りについた。