乗客は疎らで、離れた座席に数人の影があるだけ。声が響くからなのか、下津くんの声が少し抑え気味に聴こえる。


「写真部は自由だからねー。とりあえず学祭で展示する写真がちゃんと撮れてれば、文句言われないから」

「カメラが好きなの?」

「中1の頃から。まあ、趣味って言っても適当な時に撮る感じだし、没頭(ぼっとう)してこれだけってわけでも無いから。(もど)きと言ったらそれまでだけど、結構好きだよ」


 茶色の革ケースから一眼レフカメラを取り出して、画面を操作している。

 本物の一眼レフを初めて見たから、少し胸が躍った。レトロな感じでデジカメより重厚感がある。


「かっこいい……」


 蝶の羽音にも満たないような声が出た。

 ほらと向けられた画面の中には、木や花、店や街の風景などの日常が映し出されていて。

 何気ない景色の一部が繊細に輝いて見えた。

 鮮やかなパステルピンクとスカイブルーの建物が、紫や緑、黄の艶やかな花に囲まれる様が写っている。


「これ、フラワーカフェだ! 写真の方がオシャレに見えるね」


 知った場所が出て来て、思わず気分が上昇する。身を乗り出して、私は画面へ釘付けになった。