藤波くんの後ろ姿が前車両へ消えたとたん、タイミングを見計らっていたみたいに声がする。


「結奈ちゃんって、ああゆうのが好みだったんだ?」

 前方へ視線を向けながら、下津くんが歩いて来た。

 藤波くんへの対応に必死で、存在に気付かなかった。なんだか不満そうな目付きでこちらを見ている。


「違うよ」


 慌てて否定するけど、さらに目を細めて。


「さっきのって4組の藤波宗汰だよね。知り合いなんだ?」と私の隣へ腰を下ろす。

「1年の時に……同じクラスだったから」

「ふーん、なんか結奈ちゃんお礼言ってなかった?」

 さらに突っ込んで来る下津くんに(ひる)みつつ、精一杯の話題を提供する。


「そう……かな。ああっ、そういえば! 今日は、部活ないんだね」


 もっと自然な流れはなかったものか。あまりにも強引で、お粗末な切り替え方。

 けれど、クッキー事件のことは知られたくなくて。少しでも早く、藤波くんの話から逸らしたかった。