避けるように屋根の下へ入る。

 濡れた髪や制服から身震いがしてきて、自らの腕をギュッと抱いて。

 やっぱり何か怒っているみたい。

 傘を閉じた藤波くんが私の横を通り過ぎて、ほっと胸を撫で下ろした。

 もう一本あとに乗ろう。と思ったのに、戻って来た彼に腕を掴まれて、半ば強引に車両へ乗せられた。

 しばらく停止した思考が正常に動き出したのは、数分後のこと。

 座席に腰を下ろす私の前で、藤波くんが吊革を握りながら揺られている。

 全く状況の把握が出来ない。とりあえず、髪や体の水滴は消えている。

 タオルを手にしているから、無意識に拭いたことは分かった。

 だけど、どうして連れて来られたのか、無言で目の前にたっているのか理解し難いことが多い。

 視線を向ける場所すらなくて、床ばかりを見ている。


「この前は、悪かった」

 思いもよらない単語が、藤波くんの口からこぼれ落ちた。

 狐につままれたような顔で見上げると、気まずそうにコホンと咳払いをして。


「鹿島さん、2組の星名って奴と仲良いだろ? だからもしかして、あの時のこと聞いてるかと思って」


 きっと、クッキー事件の事だ。ぽかんと開いていた唇に力が入る。