息を切らしながら駅のホームを駆け上がる。

 夢中で走っていたから、昼まで降っていた雨のせいで靴や靴下に泥が跳ねていた。

 その姿がさらに虚しく思えて、こらえていた涙で前が見えなくなる。

 泣きたくない。こんなところで泣いちゃだめだ。

 哀しい雨が(こぼ)れないように、瞬きをしながら空を見上げる。すぐにでも雨が降り出しそうな雲が空を覆っていた。

 どう考えても、どこかへ行く約束だった。2人が並ぶと、世界がパッと華やいで絵になる。私とはかけ離れた存在。

 頬を濡らす一粒の雫。それはひとつ、ふたつと増えて、空から降り注ぐ絹糸のような雨と混じる。

 瞳を閉じると、心を無に出来る気がして。雨粒が醜い姿を隠してくれる。


「おい、何してんだよ」

 怒鳴りつけるような声に、ハッと目が見開く。

 恐れながら顔を向けると、ホームを上がって来た藤波くんが立っていた。

 あの日を連想させるシチュエーションと威圧的な目が、ぞくりと心臓を揺らす。

 ずっと想いを寄せていた人に、恐怖を感じる日が来るなんて。